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旭川地方裁判所 昭和37年(ワ)432号 判決 1965年3月23日

原告 伊藤武雄

被告 田口才吉郎

主文

1、被告は原告に対し金五三万六、一〇四円および内金二万五、三〇八円に対する昭和三四年四月一日から、内金二万五、三〇八円に対する同年一〇月一日から、内金二万五、三〇八円に対する昭和三五年四月一日から、内金二万五、三〇八円に対する同年一〇月一日から、内金一万六、八七二円に対する昭和三六年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する昭和三七年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金三万八、〇〇〇円に対する同年一二月一日から、各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

2、原告のその余の請求を棄却する。

3、訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

4、この判決は、第一項にかぎり、かりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金七二万六、〇〇〇円および内金六万六、〇〇〇円に対する昭和三四年四月一日から、内金六万六、〇〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金六万六、〇〇〇円に対する昭和三五年四月一日から、内金六万六、〇〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金四万四、〇〇〇円に対する昭和三六年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する昭和三七年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金三万八、〇〇〇円に対する同年一二月一日から、各支払いずみに至るまで年五分の割合の金員を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因およびその他の主張として、つぎのとおり述べた。

(請求の原因)

一、原告は、昭和二五年九月一一日被告に対し原告所有の別紙目録<省略>の土地を建物を所有する目的で、賃料は一カ月金四、二五二円五〇銭とし毎月末日限り翌月分を支払うとの約定で賃貸し、その直後、被告は右地上に二七六坪の建物を建築して所有している。したがつて、本件土地は、地代家賃統制令による賃料の制限を受けない土地である。その後、原、被告は、本件土地の賃料を昭和二八年一月一日から一カ月金一万五、〇〇〇円に、昭和三〇年七月一日から一カ月金一万九、〇〇〇円に、それぞれ増額した。

二、その後、本件土地の価格は、値上がりし、右賃料は比隣の土地の賃料に比較して不相当に低くなつたので、原告は被告に対し昭和三三年一〇月中旬到達の書面で同年一一月一日から賃料を相当額に増額する旨の請求の意思表示をした。したがつて、本件土地の賃料は、昭和三三年一一月一日から相当賃料である一カ月金三万円となつた。

三、さらに、その後、右二と同じ事由が生じたので、原告は被告に対し昭和三六年二月七日到達の書面で同年三月一日以降の賃料を相当額に増額する旨の請求の意思表示をした。したがつて、本件土地の賃料は、昭和三六年三月一日から相当賃料である一カ月金三万八、〇〇〇円となつた。

四、ところが、被告は原告に対し従前の賃料(一カ月金一万九、〇〇〇円の割合)を支払うのみで、増額された賃料の支払いをしない。

よつて、原告は被告に対しつぎの金員の支払いを求める。

(一)  昭和三三年一一月一日から昭和三六年二月末日まで一カ月金三万円の割合による賃料合計金八四万円より被告から支払いを受けた一カ月金一万九、〇〇〇円の割合による賃料合計金五三万二、〇〇〇円を差し引いた金三〇万八、〇〇〇円および昭和三六年三月一日から昭和三七年一二月末日まで一カ月金三万八、〇〇〇円の割合による賃料合計金八三万六、〇〇〇円より被告から支払いを受けた一カ月金一万九、〇〇〇円の割合による賃料合計金四一万八、〇〇〇円を差し引いた金四一万八、〇〇〇円総計金七二万六、〇〇〇円

(二)  右金七二万六、〇〇〇円の、内金六万六、〇〇〇円(昭和三三年一一月分ないし昭和三四年四月分)に対する最終の弁済期日の翌日である昭和三四年四月一日(以下年月日は最終弁済期日の翌日を示す)から、内金六万六、〇〇〇円(昭和三四年五月分ないし同年一〇月分)に対する同年一〇月一日から、内金六万六、〇〇〇円(昭和三四年一一月分ないし昭和三五年四月分)に対する昭和三五年四月一日から、内金六万六、〇〇〇円(昭和三五年五月分ないし同年一〇月分)に対する同年一〇月一日から、内金四万四、〇〇〇円(昭和三五年一一月分ないし昭和三六年二月分)に対する昭和三六年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三六年三月分ないし同年六月分)に対する同年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三六年七月分ないし同年一〇月分)に対する同年一〇月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三六年一一月分ないし昭和三七年二月分)に対する昭和三七年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三七年三月分ないし同年六月分)に対する同年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三七年七月分ないし同年一〇月分)に対する同年一〇月一日から、内金三万八、〇〇〇円(昭和三七年一一月分ないし同年一二月分)に対する同年一二月一日から、各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(被告の主張二に対する答弁)

五、被告の主張二の(一)のうち、本件賃貸借契約締結にあたり、原告は被告との間に、被告が原告に対し権利金一〇〇万円を支払う旨特約したことは、認めるが、その余は否認する。

被告の主張二の(二)のうち、原告と被告との間の賃貸借契約に「被告は原告に対し権利金一〇〇万円を内金五〇万円については契約時に支払う、残金五〇万円についてはこれを準消費貸借とする。」旨の約定が含まれており、被告はこの契約締結時に原告に対し権利金の内金五〇万円を支払つたこと、残金五〇万円については昭和三〇年五月四日原告と被告との間に、金二五万円を放棄するとの調停が成立し、これにもとづき被告がその後間もなく原告に対し金二五万円を支払つたことは認める。その余の事実は否認する。

証拠関係<省略>

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

一、請求の原因一は認める。

同二、三のうち、原告主張の日原告が被告に対し賃料増額の請求をしたことは認めるが、その余は否認する。本件土地の相当賃料は一カ月金一万九、〇〇〇円である。

二、本件土地の相当賃料を算定するにあたり、つぎの(一)ないし(三)の事情が斟酌されるべきである。

(一)  本件賃貸借契約の締結にあたり、原告は、被告との間に、被告が権利金一〇〇万円を支払う代り本件賃貸借の賃料は普通額の半分にする旨の特約をした。

(二)  原告と被告との間の賃貸借契約には、原告主張のほか、「被告は原告に対し権利金一〇〇万円を、内金五〇万円については契約時に支払う、残金五〇万円についてはこれを準消費貸借とし、利息は一カ月五分の割合とする。他方、原告は賃料額を通常の賃料額の半額とする。」との約定が含まれていた。被告は、この契約締結時に原告に対し権利金の内金五〇万円の支払いを了し、残金五〇万円については、昭和三〇年五月四日原告と被告との間に、「被告が原告に対して有した金一二四万六〇〇円の損害賠償請求権を行使しない。原告は右五〇万円のうち金二五万円を放棄する。」旨の調停が成立した。これにもとづき、被告は、その後間もなく原告に対し金二五万円を支払つた。このように、被告は、原告に対する損害賠償請求権をぎせいにしているので、実質的には権利金一〇〇万円を支払つたのと同様である。そして、右金一〇〇万円は、被告の本件土地に対する投資の意味を有する。すなわち、本件土地の地価が原告の努力によらず、自然に値上りすれば、原告は被告に対しそれによる利益を賃料減額の形で分配する義務がある。

(三)  昭和三六年中、本件土地の前面に、公の事業として道路舗装が行われ、受益者である原告にその費用負担の交渉がされたが、原告はこれに応じなかつた。そのため、被告は昭和三六年九月三〇日金四万円を支払つたのである。

証拠関係<省略>

理由

(当事者間に争いのない事実)

一、原告は、昭和二五年九月一一日被告に対し原告所有の本件土地を建物所有の目的のため、賃料は一カ月金四、二五二円五〇銭とし毎月末日限り翌月分を支払う約定で賃貸し、被告はその直後本件土地上に二七六坪の建物を建築してこれを所有している。したがつて、本件土地は、地代家賃統制令の適用のない土地であるところ、原、被告は、その賃料を昭和二八年一月一日以降一カ月金一万五、〇〇〇円に、昭和三〇年七月一日以降一カ月金一万九、〇〇〇円にそれぞれ増額した。その後、原告は被告に対し昭和三三年一〇月中旬到達の書面で同年一一月一日から賃料を相当額に増額する旨の請求の意思表示をし、さらにその後原告は、被告に対し昭和三六年二月七日到達の書面で同年三月一日から賃料を相当額に増額する旨の請求の意思表示をした。

以上の事実は、当事者間に争いがない。

(賃料増額請求権の発生について)

二、真正に成立したことに争いのない乙第一一、同第一二号各証および弁論の全趣旨によると、原告から被告に対する賃料請求訴訟における判決(第一審、旭川簡易裁判所、第二審、旭川地方裁判所)理由中において、昭和三〇年七月一日以降の本件土地の賃料は、原告の賃料増額請求の意思表示の結果、一カ月金一万九、〇〇〇円が相当であると判示され、右判決は確定したので、原、被告は、本件土地の賃料額について右判示内容にしたがつてきたものであることが認められる。このように、原、被告間に賃料が定められたときから、原告が賃料増額請求の意思表示をした昭和三三年一〇月中旬まで三年余りの年月を経ており、さらにこのときから原告が再度賃料増額請求の意思表示をした昭和三六年二月七日まで二年四カ月余りの年月を経ている。この間、賃料の増減に比例すると考えられる土地価格の変動について考えてみるに、証人渋谷善太郎の証言および鑑定人の渋谷善太郎の鑑定の結果によると、本件土地は、旭川駅から徒歩で八分、旭川市の繁華街を含む中心部に位置し、本件土地について旭川税務署の評価額は、(1) 、昭和三〇年六月当時坪当り金二万四、〇〇〇円、(2) 、昭和三三年一一月当時坪当り金三万三、〇〇〇円、(3) 、昭和三六年二月当時坪当り金七万六、〇〇〇円となつており、相当取引価格は、右評価額の二倍半であることが認められ、したがつて、本件土地の、昭和三三年一一月当時の価格は、昭和三〇年六月当時に比して一・三七倍、昭和三六年二月当時の価格は、昭和三三年一一月当時に比して二・三〇倍の上昇率を示している。

本件土地の評価について、鑑定人小松寿三郎の評価は、本件土地の位置および鑑定人渋谷善太郎の鑑定の結果にあらわれた比隣の土地の売買実例に照らして考えると、低くすぎて採用することができないし、鑑定人佐藤門治の鑑定は、明確を欠くので、これも採用することができない。

以上説示の実情から考えると、原告のした各賃料増額請求の当時既存の賃料は低くなりすぎ、増額すべき事情の変更が発生したものと解するのが相当である。

(増額すべき賃料の金額について)

三、(一)、まず、原告が昭和三三年一〇月中旬した賃料増額請求時の増額すべき金額について判断する。

(1)、借地法一二条によつて賃料の増額が認められるのは、既存の賃料の決定時から相当の年月を経たためその間における経済的変動によつて既存の賃料を維持することが不公平となるからである。すなわち、事情変更による契約内容の改訂の一つの場合である。既存の賃料決定時、その賃料額が相当賃料額よりも高いかあるいは低いかは問うべきではなく、賃料額に影響を及ぼすその後の事情の変更をしんしやくして増額すべき賃料額を決定すべきである。ところで、土地の賃料は、賃貸人が賃借人に土地を使用収益させる対価として支払われるものである。したがつて、賃料額は、賃貸人の賃貸土地についての投下資本(更地価格)に対する相当利潤額であると解すべきであるから、賃料の増減は相当地価の増減に比例するというべきである。

これを本件土地について、あてはめてみると、既存の賃料額である一カ月金一万九、〇〇〇円が決定された昭和三〇年七月一日当時に比して賃料増額請求時である昭和三三年一〇月ないし一一月当時の本件土地の相当地価は一・三七倍に増額していることは前記判示のとおりである。したがつて、右賃料増額請求時において、本件土地の一カ月の賃料は、原則として金一万九、〇〇〇円の一・三七倍である金二万六、〇三〇円に増額されるべきであり、増加額は金七、〇三〇円となる。

(2)、そこで、被告が、賃料増額についてしんしやくすべきであると主張する事項について、以下検討する。

まず、被告の主張二の(一)について。本件賃貸借契約の締結にあたり、原告が被告との間に、被告から原告に対し権利金一〇〇万円を支払う旨約したことは、当事者間に争いがない。被告は、「右契約に際し、原、被告間において、権利金を支払う代り、賃料は普通額の半分にする」旨の特約があつた、と主張し、いずれも真正に成立したことに争いのない乙第九号証の二、三、乙第一二号証に右主張にそう趣旨に解することもできる記載部分が見受けられる。しかし、本件賃貸借契約当時における賃料の世間相場がいくらであるかについて、契約当時、原、被告が認識していた形跡も、またその当時の本件賃料額が世間相場の半分であることもいずれもこれを認めるに足る証拠はないことを考慮すると、右の各証拠は右にあげた趣旨においては信用することができないが、右の各証拠と真正に成立したことに争いのない乙第四号証の一、二および賃料の世間相場ないし普通額なるものが極めて不明確であること(このことは一般の経験上明らかである)を合せ考えると、原、被告間において、本件賃貸借契約をする際、被告が権利金を支払う代り、賃料は権利金の支払いを考慮し安くする趣旨で本件当初の賃料額が定められたにすぎないものと推認され、他に右認定をくつがえすに足りる証拠もない。

つぎに、被告の主張二の(二)について。原告と被告との間の本件賃貸借契約に、「被告は原告に対し権利金一〇〇万円を支払う、内金五〇万円は契約時に支払い、残金五〇万円については準消費貸借に改める。」旨の約定が含まれており、被告が右契約の締結時に原告に対し権利金の内金五〇万円を支払つたこと、残金五〇万円については昭和三〇年五月四日原告と被告との間に、金二五万円を放棄するとの調停が成立し、これにもとづき被告がその後間もなく原告に対し金二五万円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

被告は、右調停において「被告が原告に対して有した金一二四万六〇〇円の損害賠償請求権を行使しない。」旨を約し、これをぎせいにしているので、実質的には権利金一〇〇万円を支払つたのと同様である、と主張する。しかし、真正に成立したことに争いのない乙第三号証によると、調停調書において被告が右損害賠償請求権を有することを確認した趣旨は全くなく、右請求権のあることを前提とする条項もないのであつて、「当事者双方ともその余の権利を主張しない。」という条項により被告主張の損害賠償請求権の主張を処理しているにすぎないことが認められるから、被告の右主張は容れることができない。

そうすると、被告が原告に対し支払つた権利金七五万円が増額されるべき賃料額の決定にどのように影響するであろうか。被告は、権利金一〇〇万円は本件土地に対する投資であるから、地価が原告の努力によらず自然に値上りすれば、原告は被告に対し賃料減額の形でその利益を分配する義務がある、と主張する。被告本人の供述には、右主張にそつた供述部分があるが、本件における権利金を右のような意味における投資と認めることはできない。しかし、前記認定のとおり、本件賃貸借契約当初の賃料額が権利金を支払うことを考慮して安くする趣旨で定められたことから考えると、本件における権利金には、賃料の一部前払いとしての性格があるものということができる。そして、真正に成立したことに争いのない乙第一号証によると、本件賃貸借契約において賃貸期間は二〇年と定められたことが認められるから、本件権利金七五万円は二〇カ年の賃料分の一部前払いとみることができる。したがつて、右権利金七五万円を一カ月分に割ると金三、一二五円となるが、これと本件賃貸借契約時の賃料金四、二五二円五〇銭との割合は前者が四割、後者が六割となる。すなわち、被告は、権利金七五万円を支払うことによつて賃貸期間二〇カ年を通じ四割相当の賃料を前払いしたとみることができ、残り六割が賃料として将来支払われる関係にあるというべきである。

そうすると、前記のとおり、昭和三〇年七月一日以降の事情の変更によつて本件賃料金一万九、〇〇〇円に増額される増加分金七、〇三〇円のうち六割、すなわち金四、二一八円が賃料として支払われるべき増加額であり、昭和三三年一〇月中旬の賃料増額請求(その意思表示の内容が同年一一月一日以降の賃料の増額請求であることは、前記のとおりである)によつて、本件賃料は、同年一一月一日以降一カ月金二万三、二一八円に増額されたと解するのが相当である。

被告の主張二の(三)について。被告は、昭和三六年中、本件土地の前面に道路舗装が行われ、受益者である原告にその費用負担の交渉がされたが、原告が応じなかつたので、被告が昭和三六年九月三〇日金四万円を支払つた事情をしんしやくすべきである、と主張する。被告主張のとおり事情があつたとしても、本来原告の負担すべきものであれば、賃料とは別個に清算すべきものであるから、被告の右主張は採用することができない。

(二)、つぎに、被告が昭和三六年二月七日した賃料増額請求時の増額すべき金額について判断する。

昭和三三年一一月当時に比して賃料増額請求時である昭和三六年二月当時の本件土地の相当地価は二・三〇倍に増額していることは、前記判示のとおりである。したがつて、右賃料増額請求時において、本件土地の一カ月の賃料は、原則として金二万三、二一八円の二・三〇倍である金五万三、四〇一円(円未満を切捨てる。以下同じ)に増額されるべきであり、増加額は金三万一八三円となる。前記権利金七五万円が授受されたことを考慮すると、右増加額の六割、すなわち金一万八、一〇九円が賃料として支払われるべき増加額であり、昭和三六年二月七日の賃料増額請求(その意思表示の内容は、同年三月一日以降の賃料の増額請求であることは、前記のとおりである)によつて本件賃料は、同年三月一日以降一カ月金四万一、三二七円に増額されたと解するのが相当である。

右の理由づけおよび被告の主張に対する判断は、前記(一)(1) 、(2) に説示したところと同じである。

(結論)

四、以上のとおりであるから、被告は原告に対し昭和三三年一一月一日から昭和三六年二月末日まで一カ月金二万三、二一八円、昭和三六年三月一日から一カ月金四万一、三二七円の割合による賃料を支払う義務がある。

これを原告の請求の範囲内に引き直して計算すると、被告は原告に対し昭和三三年一一月一日から昭和三六年二月末日まで一カ月金二万三、二一八円の割合による賃料合計金六五万一〇四円、昭和三六年三月一日から昭和三七年一二月末日まで一カ月金三万八、〇〇〇円の割合による賃料(原告の請求の限度内)合計金八三万六、〇〇〇円の総計金一四八万六、一〇四円を支払うべきところ、この間一カ月金一万九、〇〇〇円の割合による賃料合計金九五万円の支払いを受けたことは原告自ら認めるところであるから、これを差し引き、金五三万六、一〇四円と内金二万五、三〇八円(昭和三三年一一月分ないし昭和三四年四月分)に対する最終弁済期日の翌日である昭和三四年四月一日(以下、年月日は最終弁済期日の翌日を示す)から、内金二万五、三〇八円(昭和三四年五月分ないし同年一〇月分)に対する昭和三四年一〇月一日から、内金二万五、三〇八円(昭和三四年一一月分ないし昭和三五年四月分)に対する昭和三五年四月一日から、内金二万五、三〇八円(昭和三五年五月分ないし同年一〇月分)に対する昭和三五年一〇月一日から、内金一万六、八七二円(昭和三五年一一月分ないし昭和三六年二月分)に対する昭和三六年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三六年三月分ないし同年六月分)に対する昭和三六年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三六年七月分ないし同年一〇月分)に対する昭和三六年一〇月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三六年一一月分ないし昭和三七年二月分)に対する昭和三七年二月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三七年三月分ないし同年六月分)に対する昭和三七年六月一日から、内金七万六、〇〇〇円(昭和三七年七月分ないし同年一〇月分)に対する昭和三七年一〇月一日から、内金三万八、〇〇〇円(昭和三七年一一月分ないし同年一二月分)に対する昭和三七年一二月一日から、各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金とを支払う義務がある。

よつて、原告の請求は、右の限度で正当として認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条本文、仮執行宣言について同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 猪瀬慎一郎)

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